ロケを支えた人々⑦
栗原市
延年閣
佐々木商事
宮城県北部、岩手県との県境に位置する栗原市。花の名山といわれる栗駒山や、白鳥が飛来する伊豆沼・内沼など豊かな自然に恵まれたこの地では、震災発生後、がれきを前に太郎と母・真理亜が再会する場面が撮影された。現実を見つめ、細部まで描きぬいたシーンを支えたのは、地元企業の献身的な協力だった。
入念な下見を経て、レッカーサービスなどを扱う佐々木商事の資材置き場がロケ地に選ばれた。がれきのある光景を描くためには、撮影前に相当な準備が必要だ。繁忙期と重なるため決断は簡単ではなかったが、監督の「ここでお願いします」という熱意に「役に立てるのなら」と佐々木竜也専務が応えた。
撮影まで2週間かけて、廃車や部品などを積み上げる。ときには重機を稼働し、栗原市職員が使わなくなった家電や布団を集めて持ち込み、次第にリアリティのある姿に。直前には散水車を使って波にぬれた様子を再現した。
撮影当日に出演者や関係者を支えたのは、同じく栗原市金成の温泉施設「延年閣」。東日本大震災で100人以上の避難者を受け入れた経験があり、撮影時は80食ほどの弁当や控室の確保など、佐藤敏宏支配人をはじめ総出で奔走した。金成ではかつて沼えびが豊富に獲れたことから、えび餅は地元で愛される郷土料理だ。そばがき、いわなの押し寿司とともに栗原らしい献立が食事をいろどった。
各所への働きかけに尽力した栗原市職員の遊佐憲也さんは、今回映画制作に関わったことで、栗原市が知られるきっかけになればと控えめに語った。市としての情報発信の難しさを実感しているだけに、大変な部分もあったが貴重な経験だったと感じているという。
ひとつのシーンが流れる時間は、決して長くはない。しかしたとえ一瞬だったとしても、画面の中の描写には、途方もない手間と熱意が注がれている。これからは、映画の背景にも目を凝らしてみたい。
(取材・文 山口史津)