ロケを支えた人々⑥
登米市
「もし、40過ぎても独身だったら、俺が結婚してやるよ!」
思い合っていても素直になれない二人を象徴する、卒業の日の分かれ道。その後の人生を示唆するように反対側へと伸びる道は、宮城県北部の登米市にある。隠れた桜の名所である同市南片町大袋がロケ地に決まり、住民の歓迎ムードに包まれながら撮影が行われた。
東北の3~4月は、早春とはいえ寒い日が多い。桜前線が来るのはまだ少し先、という時期の一日がかりの撮影は、寒さや天候との勝負でもある。出演者をはじめ100人近い関係者が、地元女性が振る舞った炊き出しで温まった。
登米の食材をふんだんに使った食事は、足りなくなるほどの人気ぶり。小麦粉を水で練ってうすく伸ばしたものを、季節の野菜や油麩(あぶらふ)といただく郷土料理「はっと汁」や、地元農家が作ったササニシキを使った味噌おにぎり、採れたてのふきのとうの天ぷらなど、住民の愛情たっぷりのご飯でスタッフを支えた。
ロケへの協力や炊き出しは、「私たちも楽しかった~!」と笑顔。登米市地域振興係の伊藤正裕さんも、スムーズなサポートは住民の協力と連携があったからこそ、と感謝の気持ちをにじませた。普段から高齢者に届ける食事作りなどで協力しあっており、当日の段取りも「ツーカー」の間柄。団結力の強さは折り紙付きだ。
地元住民にとっては、映画の舞台になった分かれ道は日常の光景。ベストな撮影地を探し出した監督の熱意に感心するとともに、登米市の土地柄、お米や料理のおいしさといった魅力が伝わったのではと伊藤さんは振り返る。映画を通じて登米市のことを多くの人に知ってもらい、南方千本桜を見てほしいと考えている。
インタビューは、終始にぎやかな笑い声に包まれながら進み、映画制作に携わったワクワク感と、この土地ならではのパワフルさにあふれていた。印象的な分かれ道は、そんな明るい「人の力」に支えられていたことを、ぜひ知ってほしい。
(取材・文 山口史津)