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ロケを支えた人々③
仙台空港鉄道株式会社
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高校生以来の想いを初めてまっすぐ見つめ、二人が抱き合う3月10日。その後ろを走り去る青い電車に気付いた方は多いのではないだろうか。
この日のロケ地は、仙台空港鉄道の杜せきのした駅。同じく駅での撮影となった仙台市営地下鉄と異なり、屋外で踏切が近く、隣の名取駅には在来線が乗り入れる環境だ。撮影を進めるうえでのハードルを乗り越えるために、ベテラン社員が手腕を発揮した。
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駅で撮影を行うためには、場所を貸し出すほかにもやるべきことがたくさんある。臨時ダイヤの作成と使用する車両の選定・調整、JR東北本線の乗り換え駅である名取駅への通電や安全上の連絡を一手に担ったのが、事業部長の大久正彦さんだ。コンサート招致やイベント列車の運営経験で培われたノウハウをフル活用し、杜せきのした駅の範囲内で撮影を進行できるよう尽力した。
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実は、仙台空港鉄道の青い車体は、普段は4両構成のうち2両のみ。撮影時は4両すべての色がそろうように、点検やダイヤの並びを踏まえて調整した。そうして主人公のつかの間の幸せを象徴するような「青い電車」が誕生した。
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その日限りの青い電車には、運転歴30年以上のベテランである佐々木運転士が乗り込んだ。営業時間後の深夜の撮影のため、踏切の遮断機が降りる=警報音がなる位置に差し掛かる前に止まる必要があるが、走り去る場面のためタイミングを合わせて一定の速度を出さなければならない。この難しい制約の中、当初3~4往復だった運行をバックも駆使して10往復ほど走らせ、さまざまな角度から繰り返しカメラを回す撮影に貢献した。
機材が架線に触れないよう配慮しつつ、大久事業部長が手動で信号操作を行い、その合図を読み取って電車を走らせる。従来のアナログな手法で電車を走らせた時代からの経験がある二人だからこそ実現できた職人技だった。
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映画の撮影は、幅広い経験豊富な大久事業部長にとっても新鮮な経験で、スタッフの段取りの速さに「勉強になります」と感心する。この新しい経験を原動力に、ロケ地の鉄道として存在感を増していくことに期待したい。
(取材・文 山口史津)